「建物に歴史があると、その維持管理は本当に大変なんです」
別府市内で明治時代の建物が現存しているのはここだけ。「富士屋ギャラリー 一也百」のオーナー安波治子(やすなみはるこ)さんが説明しながら案内してくれた建物の2階は、歴史であふれていた。
レトロなガラス戸が庭を見下ろす、グランドピアノの洋間。以前は濡れ縁の向こうに雨戸があったという。
元は雨戸があった場所にガラス戸を入れたので、濡れ縁の手すりより外側にガラス戸が取り付けられてある。
庭から見上げてもよくわからなかったが、この場所からウスギモクセイを見下ろすと、樹齢200年の立派な樹が確認できた。
建物の前身である「富士屋旅館」は、明治32(1899)年の開業。本館10部屋、新館9部屋で営業していた。
「一番いい和室は今でもそのままにしています」
南側の部屋はフローリングに改装されているが、一番いいお部屋はそのままの姿を残している。
その和室に入るとすぐに目に入る大正時代のサンドグラス。ガラスは大きな丸太の木の窓枠に囲まれている。
「丸太って先が細くて根っこの方が太いでしょ。だから、この窓は、職人さんがガラスを斜めに切って丸太の斜めに合わせてるんですよ。こういうのを現場主義っていうんでしょうねー」と、治子さんは笑う。
次に目を見張ったのは、籃胎(らんたい)漆器のテーブル。裏も表もつややかな紅色の漆で塗られた精巧な竹細工が、机になっている。それはそれは美しい。
「ふだんお盆で見かけるものですよね」
秋葉通りにある「斎藤漆器」で特注したものらしい。
さらに思わず声が漏れたのはは、屋久杉張りの天井。
「南の方の屋久杉はこうやって自然に黒い油染みが出てくるんですって。ほら、そっちは出てないでしょ」
油染みの本間は主人が泊まり、油じみの出ていない普通の杉張りの「次の間」はお連れの人が泊まるという密かなルールもあったという。
和室といえば、欄間。明治のころは、欄間師という職業がなかったので、芸術的な細工が施されることはなかった。大工さんが自分でモチーフを描いて糸鋸で削っていたので、控えめな感じ。それが今見ると逆にかわいらしい。
ふすまの引手にも遊び心が満載である。
「こうもり、土瓶、これは楽器の琵琶……船のオールかなあ。今となっては何の形かははっきりとわからないんです」
ふすまの柄、棚の細工、ふすまの引手も職人さんによって自由にデザインされている。
「当時はこういった“無駄“がたくさん部屋中に散りばめられてるんです。”無駄“こそが心の余裕だったんじゃないかな」と治子さん。
旅館の役目を終えたあとの建物で、コンサートや展示会を開く場所として「富士屋ギャラリー」を開いた。
「人が訪れて、そこに交流が生まれ、そしてみんな家に帰っていく。旅館の時と同じかなぁ」
維持するのが大変だという理由で壊されている古い建物はたくさんがあるが、治子さんはひとつひとつを大切に大切に守り続けてくれている。
ここは、時間と空間を大切にする人にはぜひ立ち寄っていただきたい場所である。
BE@BEPPUおすすめメニュー
モンブランとコーヒー セットで990円
落ち着いた店内で飲むコーヒーは素敵なカップに入って運ばれてきます。甘いケーキと一緒に頂くのが至福の時間には必須です。
「冨士屋 一也百 Hall&Gallery -はなやもも-」の情報
住所 | 大分県別府市鉄輪上1組 |
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電話番号 | 0977-66-3251 |
営業時間 | 10:00-17:00 |
定休日 | 月曜日、火曜日 |