私は別府駅の北高架商店街にある「てんてん」という場所がとても好きだった。
いちばんの理由はそこの副店長のよしえちゃんが好きだから。
よしえちゃんとは「てんてん」がなかったら、多分ただの上司と部下の関係がずっと続いてたと思う。
控えめで無口なよしえちゃんが、私にガンガン話しかけるなんてことは絶対になかっただろうし。
「てんてん」の狭い店内の椅子に座って、カフェオレ飲みながらする、可愛い男子の話、嫌いな人の話、過去の恋愛の話、お互いの夢の話、家族の話、お金の話……。取り止めもなくいろんなことが浮かんできて、何を話しても許される、そういう場所だった。
去年の秋から神社仏閣の取材でたくさんの神社やお寺に行ったけど、場所の持つパワーというものは必ずある。空気がスッと変わり全身がそれを感じる。
あの小さなお店の中には、私の心の鍵を開けてしまう何かが潜んでたのか、それとも私がそれを求めていたのか。
思えばいろんなことがあったなー、たくさんの人と知り合ったなー、心がいっぱいになるとここに来て溢れるように話してたなー。
この3月末に「てんてん」はクローズしてしまうけど、あんなに好きだった場所だけど不思議に寂しくない。「てんてん」は間違いなく私の人生を180度変えてくれた場所だし、そこに集まってくる人たちも大好きだし。
人生の中にたくさんのステージがあると思う。
例えば、中学校。運動神経が良くて部活で大活躍してスーパースターのように扱われたとしても、一生その場所にいることができない。また次のスーパースターが現れて、毎年毎年その繰り返しがステージの上で繰り広げられる。
1人の人間が、一生い続けられるステージなんて存在しない。家族ですら一生同じ形を同じ場所で維持することはできない。
そうか。
「てんてん」は私にとってひとつのステージ。
場所がなくなっても、そこで出会った人たちとずっと繋がってるから、それでいいのか。
桜がキレイに咲き始めたのを見て「てんてん」からの卒業かなって思えた。